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猿雑記2000年7月19日〜2002年11月11日までのメンバー日記過去ログ
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[449] 声に出して読みたいエッセイ「素晴らしきゴローの日記」 明水 2002-04-17 (Wed) 11:25

某月某日

春だ春だランランラン。春服買いに街へ出る。犬が歩くよワンワンワン。猫が走るよニャーニャーニャー。サンの、ヨンヨンまるまるワンワンワン。ツカサのウイークリーマンション。伊藤マンショを思い出す。何の人かは知らないが、たしか歴史の人物だ。ゴローの歴史は平凡だ。平々凡々ヘイぼんぼん。バンバンビガロはレスラーだ。ばんばひろふみタレントだ。ビンゴボンゴは解散だ。バレンチノはブランドだ。ブランドものを買いあされ。今日は春だ買い物だ。
とにかく街へ繰り出した。とっとことっとこ繰り出した。おもちゃのマーチでラッタッタ。馬場はあの世でアッポッポ。猪木は現世でダーダーダー。街は今日もワッチャッチャ。人混みひどくてガッチャガチャ。ラムちゃんダッチャと思い出す。こんな日にはヒョウ柄だ。豹をまとって生きていく。男ゴローだ豹になれ。
ヒョイッと入ったバレンチノ。今年は黒が流行だ。地味なカラーに嫌気さし。豹は無いかと討論会。豹は無いよと答えられ。困ったはてにストライキ。ストライキにはストライプ。縦じまファッションここにあり。豹はあきらめストライプ。
春めくゴローに恋の予感。家に帰って妻に言う。今年のゴローは縦じまだ。パジャマじゃないのと妻が言う。なんと模様がおんなじだ。わが家の寝まきとウリ二つ。シャツが寝まきで寝まきがシャツだ。あいつが俺で俺があいつ。ショックを受けてふさぎこむ。やはり豹が一番だ。その時心に豹宿る。豹が宿って噛みちぎる。シャツを噛んで妻も噛む。今夜のゴローはワイルドだ。サファリパークの一晩だ。豹的要素で攻めまくる。豹的要素で答える妻よ。今夜はおまえが標的だ。
男ゴローが豹になる。さしずめおまえはカピパラだ。

[448] 声に出して読みたいエッセイ「素晴らしきゴローの日記」 ハセガワ 2002-04-13 (Sat) 02:01

某月某日

俺の名前はゴローだぜ。
東京生まれヒップホップ育ち、悪そなヤツと大体同じ、この街の裏道バンバン見てきたぜ。
渋谷六本木、そう思春期も早々に、これにぞっこんに、 
カバンなら置き放っしてきた高校に、マジ親に迷惑かけた本当だぜ。
だけど時、経ったら今じゃ雑誌のカバー、そこらじゅうで幅きかすダンダダ。
マイク掴んだらマジでNo1 東京代表トップランカーだ。
そうこの地この国に生を授かり、ジャーに無敵のマイク預かり、
仲間達親達ファン達に今日も、感謝して進む荒れたオフロード。

今日もゴローは雑誌の仕事。水着に制服、ふんどしだ。
今日はいっぱいサービスを やってやろーとハミチンだ。
コラコラゴロー、コラゴロー、ハミだしちゃってはいけません。
トップランカー怒られた。ハミだしちゃったら怒られた。
とにかくまずはマイク持ち、?1を見せ付けて、幅をダッダダきかすのだ。
マイクでまわりの人々を、バンバン蹴散らしナックアウト。
やっぱりマイクを持っちゃえば、俺は無敵の50代。

仕事の後はセンター街、地べたに座ってたむろする、90年代若者だ。
女子高生に声をかけ、キモいキモいと罵られ、ブースブースと捨てゼリフ。
ナンパ諦め、腹ごしらえ。妻の弁当開けてみる。
今日の弁当ヤキソバだ。なんで弁当ソバなのか?妻の神経疑った。
腹が減っては戦は出来ぬ、泣く泣くソバを啜ったよ。

腹満たし、真っ赤な太陽沈む頃、ゴローが向かう戦場は、なんといってもピンサロだ。
安い小遣い握り締め、新聞切抜き握り締め、行ってくるぞと勇ましく、入るは場末の裏通り。
席に着き、ドキドキしながらビール飲み、タバコを3本一気吸い。
待ってましたよ女の子、僕の隣に座ったよ。
コッチに向けたその顔は、どっかで見たことある顔だ。
にっこり笑うその歯には、べっとり青海苔付いていた。
「迎えにきたぞ。」ととりあえず、言ってみるがだがしかし、
なんとも言えない顔をした、妻が一言こう言った。
「今夜はウチはすき焼きよ!」

あっけにとられた50代、進むべき道荒れまくり、
家族とともに歩もうぞ、あぁ素晴らしきかな我が人生。

[447] 声に出して読みたいエッセイ「素晴らしきゴローの日記」 石倉 2002-04-12 (Fri) 11:56

某月某日

スーダラダッタ水曜日。いつもと違う今日の日は。
お目めパッチリ胃もスッキリ体シャッキリお口スッカリ臭い無し!

電車デンデン会社に着くと、受付嬢のおねーさん、かわいい声で「おはよう」と
いってくれたりするもんだから、こちらも返す「おはよう」と。

階段ダーダー元気に登り、肩でゼーゼー息します。
ドアをズドンと開けまして、大きな声で「おはよう」と号砲一発飛ばします。
いつもダンマリ会社のみんな今日はなぜだかスマイルで、
「おはよう、おはよう、おはようさん」みんな元気に言ってきた。
キラキラ輝く今日の俺、ひと味違う今日の俺。違いがわかる今日の部下。

ガガガ課長が呼んでいる。嫌味な課長が呼んでいる。「ゴロー、ゴロー」と呼んでいる。
「例の取引どうなった?大事な取引どうなった?」
「今日にはどうにか致します、いまからどうにか致します」
「とっとと取引まとめてこい、さっさと取引まとめてこい。でなきゃおまえはKill you!!だ。」
いつもはしょんぼり出ていく俺も、今日とばかりは違います。
お目めキラキラ背筋シャンシャン胸をハリハリ口にバリバリブレスケア!

ゴゴッゴゴーゴー、ゴローゴロー!元気一杯飛び出して
うららな天気の春の日を全速力で駆け出した。
道行く人が笑ってる、日の丸振って笑ってる。
ゴローの味方は億千万。日本、チャチャチャ!ゴロー、チャチャチャ!

ダラダラ汗かき20分。取引先に着きまして応接室に通されて、汗がヒキヒキ20分。
やっと出てきたコワモテさん、いつもは恐いコワモテさん。
今日はニコリと笑ってる。笑った顔もまた恐い。
ゴローを指さし笑ってる。コカンを指さし笑ってる。
社会の窓が開いてる、パックリパカパカ開いてる。

顔から火が出たボボッボボーボー
股から出ているブブッブリーフ

あわてるXXXはもらいが少ない、あわてるゴローは機転がきかない。
思わず湯飲みで隠します、熱い湯飲みで隠します。
下は洪水、上は大火事、これなんだ?今のゴローでございます。
恥ずかしくって泣けてきた。おいおいおいおいさめざめさめざめ泣けてきた。

さてさてさーさーどうなるゴロー、課長にKill you!!されるのか!?
ところがどっこい、どっこいしょ。
哀れに思ったコワモテさん、取引まとめてくれました。
運が良いのか悪いのか、さっぱりわからぬ水曜日。
「こんなものさ」と空見上げ、ススッスイスイ人波駆け行くゴローです。

[446] 声に出して読みたいエッセイ「素晴らしきゴローの日記」 坂田聡 2002-04-09 (Tue) 23:58

某月某日

今日は火曜でございます。
会社に行ったら大変よ。課長が怒って仁王立ち。
空気がいつもと違うのさ。ほかの社員も下を向き、反省してるご様子だ。
大きな声で「おはよう」と、ドアを開けてはみたものの、どうしていいやら分からない。
「私が何かしたのでしょうか?」
聞きたい気持ちはあるけれど、
私はやっぱりチッチャイ男、ただただ下を向くばかり。小心者でございます。
そそくさと席については見たものの、仕事がさっぱりはかどらず、隣の席の関さんに、
「なんで課長は怒っているの?」と聞いてみた。
そしたら関さん、こっちを向いて「さっぱり私わかんない」ときたもんで、
足りない頭で色々と、日ごろの行い考える。
「なんかした?なんかしたか?」と考える。ないこたないか。あのことか。

課長がいきなり私に
「牛丼食べたい、食べたいよ。食べなかったら死んじゃうよ。あー私のお腹を吉牛で、満たすことが出来るなら、
私は死んでもかまわない。ゴローよ、今すぐ私の前に、牛丼わんさかもってこい。」
言われてしまったもんだから、急いで財布を確認し、一目散に走ったの。
そしたら大変、吉牛が超満員で行列だ。並んで待ってはみたものの、まだまだ時間はかかりそう。
これじゃあ、課長に怒られる。「おいゴロー。この野郎ったらこの野郎。おまえはもうすぐ40なのに、
情けないったらありゃしない。みそこなったぞこの野郎。」こんな感じで怒られる。あーどうしよう、どうしよう。
どうしましょうったら、どうしましょう。
悩んで周りを見渡すと、、隣りが松屋で超ラッキー。こちらはどっこいすいている。
吉牛がいいなと課長はいったけど、この際だから仕方なし。
吉の牛だと嘘ついて、課長の前に差し出した。そのことならば謝ろう。

課長の前にしゃしゃり出て、「すいません。わたくし嘘をついてたよ。この前買った牛丼は松屋のヤツでございます。」
そしたら課長が、あっけに取られ、「何の事だ」といぶかしげ。
「じゃあなんで怒っているの?」と単刀直入、聞いてみた。
そしたら課長がこういうの。「なんで私が怒るわけ?怒ってなんかいるものか。虫歯がちょっち痛いだけ、
話し掛けるな。この野郎。」社員はみんなずっこけて、笑って笑って大笑い。
笑い話でございます。

[445] 声に出して読みたいエッセイ『すばらしきゴローの日記』 六角 2002-04-08 (Mon) 04:10

某月某日

ついにきたきた月曜日。今日から始まる一週間。はじめよければ全てよし。
チータカタッタチータッタ。馬車馬みたいに働いて、五十路まじかのゴローでも、
春の陽気にうかされて、心も踊れば身も踊る。
ワークソングを歌い上げ、ひとりで暴れてメガネを壊す。
ネクタイだっていつもより、ハデめを選んだショウブフク。
ところがどうだいにょうぼのやつは朝めしシリアル出してきた。
米国式とは書くけれど、米は何処にもナッシング。
こんなメシでは馬力がでんと、いってやりたいところだが、
にょうぼはとんだ馬鹿力。気性の荒さはムスタング。
うっかりヘタなこと言えず、ウマイウマイと飲下す。
質より量だと腹くくり、牛乳朝から500ミリ。
これがホントの牛飲馬食。いきなり出鼻も挫かれた。
それでもゴローはひらめいた。駅に立ち食い蕎麦がある。
いつもの通勤快速に、飛び込むまでにゼヒ食おう。
突然ゴローの頭の中に、響き渡ったファンファーレ。
ゴロー午年、年男。頃はおりしも桜花賞。見事なまでの馬尽くし。
そういややけにうまづいた、きょうここまでのこの流れ。
もういいなんでもかまわねえ。靴をはくのももどかしく
ゴローは思考を完全停止。家のゲートを飛び出した。
最終コーナー駆け抜けて、駅まで直線100メーター。
ゴローの頭の内部では、興奮気味の徳さんが、
競馬の実況さながらに、ゴローの名前を大連呼。
その時突然腹痛が。腹もゴローを大合唱。
やっぱり牛乳効いてきた。追い込み空しくコースアウト。
飛び込む先は違えども、ナンとか滑り込みセーフ。
ところがカミが見放した。とんだところでウンがつき、
結局この日は有給使い、仕事に大穴あけました。
サンザンゴローの月曜日。

[444] 声に出して読みたいエッセイ『すばらしきゴローの日記』 マギー 2002-04-05 (Fri) 00:35

某月某日

待ちに待ってた日曜日。今日は家族でハイキング。サンドイッチにおにぎりだ、唐揚げ入れるの忘れるな。
にょうぼ子供と4人して、高尾山へと登ります。ナイキアディダスアシックス、プーマの靴ではないけれど、
ダイエーで買ったスニーカー、きゅっとキツメの蝶結び。「行ってきます」と朗らかに、ドアを開けたら驚いた。
雨がザーザー降っている。しゃれにならないどしゃぶりだ。てるてる坊主てる坊主、雷様のお怒りだ。
残念無念の表情で、家族4人で立ち尽くす。なんてこったい、やなこったい。ドアにガツンと右フック。
仕方ないやと逆戻り。我が家で食らうおにぎりの、砂を食うよな味気なさ。嗚呼、最悪の日曜日。ゴローすっかりおむずがり。
その時はたと思いつく。家で家族で楽しめる、あんな企画があったべな。笑顔で鍋をつつきあう、素晴らしき哉、鍋パーティー。
暦は卯月になったけど、季節外れも悪くない。母さんそれなら楽ですと、早くもテンション最高潮。
こうなりゃ楽しい方がいい。向こう三軒両隣、大家さんちも誘い出せ。
向こう三軒両隣、大家さんにも断られ、再びブルーになりかける。
それでも鍋は止まらない。走り出したら止まれない。ゴロー列車にブレーキは、ないでござるよ山本さん。
一体誰だよ山本さん。自分ツッコミ入れながら、早速準備にとりかかる。
水炊き、しゃぶしゃぶ、キムチ鍋、鴨を入れれば鴨鍋と、鍋にもいろいろあるけれど、今夜の我が家はすきやきだ。
古くは農家で鍋がなく、鋤を使って食べたそう。しょうゆ、みりんに砂糖、酒、配合加減はお任せを。
父さん得意のワリシタで、家族のシタを唸らせる。
さー子供たち卵割れ、卵にからめて食すのだ。さー割れさわれケツ触れ、父さん得意の洒落も出た。
家族爆笑、悶絶だ。TVじゃ円楽、爆笑だ。楽さんこれまたウマイこと、言ったかどうかは知らないが、
我が家もこれからウマイ鍋。いざ食さんとフタ開けりゃ、湯気がモウモウたちこめた。
家族4人でメガネです。当然メガネは曇ります。曇ったメガネ越しに見た、家族の笑顔に幸せを、感じたゴローの日曜日。

[443] 新企画、です。 マギー 2002-04-05 (Fri) 00:25

どーも、有言実行、強運の男、マギーです。
どうやら皆さんの興味はあの賞金の使い道、のようですが、
あーゆーお金はドバっと一気に使うもんだと思うんで、
そのうち衝動買いでもします。ドバっとね。

さて、メンバーで絶賛好評中の「ケツから小説」ですが、
なんせ“手をカエ品をカエ”が大好きなメンバーなもんで
「もー他のことしよー」って話になりまして、新企画、です。

雑誌フライデーの巻末の「おいしいニュース」ってページが前々からメンバー内で話題で。なんでかってぇとやたらゴロがいいの。
七語調ってゆうの?とにかくよくその文体をマネてしゃべったりしてて。
(コンビニで一度見てみるといいよ)
そんでアレをいっぺん書いてみたいなって話になりました。
だから今回は、ある架空の作家のエッセイを全員で書く、っちゅう企画です。
とにかくゴロがいい文章を目指して書きます。すばらしいゴロのやつを。
声にだして読めばある意味ライム?ラップを越えるかも。
さーどうなるか。またまたご期待あれ!!

[442] ケツから小説「ライト兄弟」まえがき 坂田聡 2002-04-01 (Mon) 03:48

いやー今回初めて最終回書いたんですけど、これが難しかった。
出来てるものを壊すのはすきなんだけどなー。
だから短い文章になってしまいました。ごめんなさい。
今まで最終話かいてたマギーに脱帽よ。
今回のMVPはマギーの荒井注のくだりかなあ。
家で爆笑してお茶こぼしてしまいました。
でも自分が何気なく書いたマスクマンプロレスラーデン助が
実は横山さんという人だったり、
ライト兄弟が実はチーム名だったりとホントメンバーの皆さんの
おもしろ想像力に関心いたしました。
バッタモンの靴をライト兄弟がデン助にもらったところを
みんな忘れてて、悲しかったりもしたけれど、まーいいできなんじゃないっすか。
これ誰か映画にしてくれないかな―。
俺はナタ―シャに立候補します。

[441] ケツから小説「ライト兄弟」第1話<夢想> 石黒 2002-03-31 (Sun) 00:57

 人類は古代より空を自由に飛ぶことを夢見てきた。それ故に神は天上に住み、そして翼を持ったものたちを神は遣わしてきた。鳳凰、天使、ヤタガラス、ガルーダ、全ては人間の大空への憧れが生み出したものである。そして今21世紀、人類は大空を支配している。人類がもつ飛行機は音速を越え、何百人もの人間を一度に運び、ついには、地球の重力の鎖さえふりほどき、遠き星々にまで手をのばそうとしている。しかし、我々は忘れているのではないだろうか?我々がいま受けている恩恵が誰のおかげなのかということを。今、この混迷の時代にこそ勇気ある先駆者たちにスポットライトを当てることが必要なのではないだろうか?我々はいまから真実の物語をみることになる。「兄弟」と呼ばれた熱き男たちの物語を。
(語り:関口宏)

 誰かが、見たこともない乗り物で宙を舞っていた。汗のような涙のような液体をほとばしらせながら。その下に自分がいた。その液体を全身に浴び、口一杯に受け、黄金色に輝きながら。なんともいえない幸せのひとときだった。その光景はいつかみたことのあるようなものであり、そしてまたこれからみるべきことのようでもあった。世界には大空と、飛ぶものと、そしてそれから降り注ぐもので満たされていた。

「・・・ロン、マロン、おいマロン!」
イパネマは、先ほどから一人あらぬ方向を向いてなにやら興奮しているマロンに声をかけた。
「お前、話しきいてたか?これは大事なことなんだぞ!」
「・・・え?うん?聞いてる聞いてる。俺、それがいいと思うよ。」
マロンは口のはしからよだれをたらしながら、適当に相づちを打った。
「・・・まだ、なにも話してないよ。いい加減人の話をきけよ!まずはこれからどうするかだ。」
「・・・。」
マロンは黙って下を向いてしまった。
「富樫、お前の意見は?」
富樫はイパネマの視線を感じるや否や喫茶店のメニューを見だした。
「・・・。」イパネマは心底からため息をついた。それも無理のない話である。この何ヶ月間、ずっとこの調子であった。人類初の飛行機を夢見て3人で頑張ってきたが、5機の試作機すべてが失敗におわっていた。そんなイパネマに追い打ちをかけるように店内に甲高い声が響いた
「聞いたわよ! あんたたち空を飛ぶ機械を作ってるんですっって!」
振り向くとそこにはパン屋の米倉さんがいた。
「あの、米倉さん。それだれから?」イパネマは声を低くして尋ねた。
「大丈夫よ、わたしはこうみえても口堅いほうなんだから。」イパネマの質問を無視して米倉さんは気に障る大きな声で続けた。
「あの、」
「まかせといて、わたしに。だれもあんたたちが空飛ぶ機械をつくってるなんて、これっぽっちも知ることなんてないから。だれもあんたたちが狂ってるなんて思わないから。」
米倉さんはそういうと、次のテーブルにいき「だれにもいっちゃ駄目よ」といいながら、3人のことを
おもしろおかしく、落語家のように語りはじめた。3分後、イパネマ達は店から追い出されていた。

「・・・諦めるか。」肩をがっくりと落としたイパネマは2人に語りかけた。しかし富樫とマロンは、
イパネマの話を当然のように聞いてなかった。イパネマが2人を手にもったドライバーでぶんなぐろうとしたそのとき、背後から声をかけられた。
「飛ぼうと思えば飛べるぜ!」そこには3人の男たちがいた。
「だれだお前たちは?」いぶかしげにイパネマは尋ねた。
「僕たちは、空飛ぶ機械を作ってる馬鹿な男たちがいるときいてきた。」
3人の中でリーダー格らしい髭の生えた男がいった。
「それがどうした?それなら馬鹿にでもなんでもすればいい。」
イパネマは憤慨して答えた。
「いやいや、俺たちも空飛ぶ機械を作ろうとしてるんだっぺ。」3人のなかで1番みすぼらしそうな男がくさいいきを吐きながらいった。
「それで、僕たちは協力できるんじゃないかと思ったんだ。」
髭男がそのあとをついで喋った。
「それで、いったい俺たちにどうしろと?」イパネマは警戒しながら答えた。
「まあ、それは俺の家さついてからにするべ。」
悪臭を出しながら貧乏人が提案した。イパネマもこれからどうなるかわからぬまま3人についていくことにした。富樫とマロンはまったく話をきいておらず、なんとなく小犬のようについていくことにした。
途中、米倉さんに吹き込まれた村人たちが、石や腐った卵、腐ったひよこ、腐った鶏を投げてきたが、イパネマはそんなことよりも途中から仲間ずらして合流しているマスクマンプロレスラー横山のほうが気になっていた。米倉さんによって煽動された村人たちがうんこを投げてきたが、そのときに何故か、
マロンは異常な興奮を見せていた。

[440] ケツから小説「ライト兄弟」第2話<命名> 六角 2002-03-29 (Fri) 15:18

 (第1話石黒著から引継ぎ)

「悪だくみをするかんじで。」と池田に連れられて「?」顔のまま一同は村はずれの池田の小屋に集まった。
廃屋同然。それがみんなの第一印象だった。「わー、なんかおまえんち納屋みたいなニオイがするなー」
普段は無口なくせにそんなことを突然口走ってしまうマロン。確かにすえたにおいがしていた。
「とにかく俺達のチーム名を決めよう。」イパネマがきりだした。
「キメようと思えばキメるぜ。」モトリーが応じる。
「それと自己紹介もせえへんか?わいはバッキー。金庫つくってんねん。」
どうやらこの会議の流れは場所を提供した池田を含めたこの四人が握ったようだ。
出遅れた感マンサイで富樫、無口なマロン、俺はそれでも参加してるよ的にメモをとろうとしだすマスクマン横山が
部屋の隅に腰を落ちつけたところでネーミング会議が始まった。
「まず空を飛ぼうっつー夢を前面にだしていこう。」イパネマがぶち上げた。
「鳥のようにな。」モトリー的にいい意見だとゆうかんじでつづけた。
横山がメモに書きつける。「…飛鳥。」
「男のロマンの猛々しさを…」「っつたらやっぱ獅子っしょ。」とバッキーと池田。
「獅子のような…ライオネス…。」横山はいきなり人知れずひっそりとモチベーションを下げた。
メモとる気がひいていく。それでも後で見返して、ひとり思い出し笑いのネタにしようと思い直した。
珍ネームがぞくぞくでた。すずめのおやど、巣立ちブラザーズ、常勝(上昇)ツバメ軍団…。
空しく時だけが過ぎていった。夏の午後の暑さが部屋に充満し、会議は行き詰まった。
「あっちー、もうなんもしたくねー」もはや全員が北の国からの邦衛状態になっていた。
「…さっきからなんもしゃべってねえお前らだけで会話しろよ」しびれを切らしてイパネマはマロン、富樫、横山を見た。
しばし沈黙の後横山が言った。「…じゃぁ、あの…お二人の夢は?」「…空を飛ぶことかなぁ」「…うん。」…。
「で、おわりかよ!」四人同時につっこんだ。「…そうか」横山は泣いていた。
「ってわかりあうなよ!」「…じゃぁ、俺試合いくわ。」「って帰るのかよ!」「…がんばれよ、バロン」「マロンだよ!」
「…あぁ、ウンコでちゃった。」「だすなよ!」そんないきなりの怒涛のようなボケつっこみの後
巨体のマスクマン横山が池田の小屋のドアを無理やりぶちやぶり出ていくと
お約束のように小屋は崩れた。「…ダメだこりゃ…」と、もうもうと舞う埃の中イパネマは言っちゃうしかなかった。

「なにやってんだかな〜。」イパネマはカウンターで呟いた。
会議をここスナック<ダブルベッド>に移したところで状況は変わらなかった。
夕方この店に入った瞬間、昼酒で真っ赤に濁った目をして抜き身の包丁をぶらさげてつったっていた、
一目で人生デッドエンド寸前のナターシャを見てこの店はやめるべきだったのだ。
しかし「まちな。あたしゃあんたらの味方だよ。」というナターシャの言葉がみんなの心に響いたのも事実だった。
たとえそれが酔ったときのナターシャが誰にでも言ううわごとであったにせよ。
そしてチーム名を決めたのもナターシャだった。巣立ちブラザーズから兄弟部分だけもらって
あとは「明かり(ライト)に群がる蛾のような〜」とかいうナターシャの好きなブルースの一節からライトをもってきて
<ライト兄弟>。みんなの頭にも電球がついた。酔った勢いだ。そして盛り上がった今、ようやく飛行機の完成予想図
をみんなでわいわい描いていた。「名前は?」「アルバトロス!」(爆笑)「とびそうじゃね」「ゴルフっぽくね」(爆笑)
ドリフのバカ兄弟さながらの声が聞こえている。さっきイパネマがチラッと見たら翼は無いわ6人乗りだわ崖から投げるだわ
そんな文字や絵がなぐり書きされていた。「投げるんじゃない飛ばすんだ。」喉まで出かかった言葉をイパネマは飲み込んで
ちょっと吐いた。しかしイパネマがブルーなのはホントのところ今日二回目の「ダメだこりゃ」を素で言ってしまいそうな事だった。
外では試合後駆けつけた横山がみんなの言われるままに腕力を鍛えていた。
飛行機誕生。歴史が動くそのときまで、あと数ヶ月だった。


[439] ケツから小説「ライト兄弟」第3話 <神風> 木下明水 2002-03-27 (Wed) 16:35

(第2話六角著から引き継ぎ)

 「アタイが乗ってやろうじゃないの!」
作業場のトビラが開き、ナターシャが入ってきた。誰も恐くて乗ろうとしなかった「アルバトロス1号」の初実験に名乗りをあげたのだ。「なに、大の男がビビってんだい?アタイはね、この腕一本でここまでやってきたんだよ。まかせときな!」彼女は6人の顔を見渡してフフンと鼻で笑う。バッキーが神妙な顔でナターシャ−に告げる「しかし、ナターシャさん、このアルバトロスはまだ不完全な所が多々ありまして・・・」「何、いってんだい!かまわないわよ!」「実は、主翼は障子紙でして・・」「かまわないわよ!」「それに、エンジンは扇風機でして・・」「かまわないわよ!」気が強いナターシャのこと、何を言っても「かまわない」という返事だった。「アンタたちね、空は羽で飛ぶんじゃないよ!・・いいかい、心で飛ぶんだ、ハートでね!」このナターシャの一言で皆納得した。こうして初のパイロットはナターシャに決定した。
 翌日、街一番の急斜面である「猿すべり坂」に全員が集合した。アルバトロス1号を斜面を滑る力を利用して飛ばそうという計画なのだ。猿も滑るといわれる急な「猿すべり坂」、傾斜60度くらいはあるだろうか。頂上にいよいよアルバトロス1号が設置され、ナターシャがヘルメットを被って坂を見下ろした。「いよいよアタイが飛ぶんだね!」高揚する彼女と対照的に6人はふさぎ込んでいた。「もしかしたら失敗するかもしれない」とバッキーと池田は考えていた。「飛ぼうと思えば飛べるぜ!」とモトリーは考えていた。イパネパはナターシャのヘルメットが「どっきりカメラ」みたいだと考えていた。富樫とマロンはボーツとして何も考えていなかった。ナターシャは皆の重たい表情に気付いたのか、それとも自分のテンションをあげるためなのか、鞄からシャンパンを取り出した。「いいかい、海ではね進水式っていってね、シャンパンを割るんだ、こうやってね!」彼女はアルバトロス1号の先端であるプロペラにシャンパンを投げ付けた。「パリーン」という音とともに、プロペラがちょっと曲がった。「バシャ!」っという音とともに、主翼の障子紙が濡れて穴があいた。「サクッ」という音とともに富樫とマロンの額に破片が刺さった。「ダメだこりゃ!」と6人全員が思った。バッキーが中止を要請するも「かまわないわよ!」とだけ返す彼女。すでにナターシャのテンションはあがりきっている。「ヌオオオオ!いくわよー!」酒かクスリかやっているのか彼女は周りが見えていない、一人でコクピットに乗り込み、とうとう一人でカウントしだしたのだ。
 「5・4・3・2・1・ゼロ・ゴー!」ナターシャは自らストッパーであるナワを切り落とし勝手な感じで発射した。滑り出すアルバトロス1号。6人はあっけにとられて見守るだけだった。ガチンコの「この後、予想だにしない結末が!」というテロップが彼等の脳裏をかすめた。しかし待ち受けていたものは「意外と予想ができる結末」だった。滑り出して10メートル地点でナターシャはテンションがあがって奇声をあげた「キエエエエエエ!」と。20メートル地点でプロペラがふっとんで、ナターシャの側頭部に刺さった。彼女は「イテエエエエエ!」と叫んだかのようだった。30メートル地点でちょっと浮いたがすぐ落ちた、彼女は舌を噛んだ、というよりか噛み切った。飛行機は飛ばなかったが、見事に舌が飛んだ。40メートル地点ぐらいであろうか、車輪が何かにひっかかってアルバトロスがひっくりかえった。しかし急斜面、そのまま滑りつづける形になった。もちろんナターシャの頭は地面を擦り続けている。おかしな方向に首は曲がっている。誰もが「あっ、死んだ・・・」と思った。無言でアルバトロスがその後100メートルほど滑るのを見つめる6人。砂煙りをあげて滑るアルバトロス。飛行機の実験というよりも一直線に坂道を滑る実験にしか見えなかった。「ドーーン!」と大きな音がしてアルバトロスは民家に突っ込んだ。
 しばしの静寂を撃ち破ったのはイパネパの「アチャー」という声だった。「民家の修理代で結構かかるべな・・資金がもう無い・・」池田が冷静に計算する。民家から恐いおっさんが出てきて「こら−!」とどなった。6人は一目散に逃げた。6人は後ろを振り返らず逃げた。怒るおっさんをマスクマン横山さんが得意のルチャ仕込みの空中殺法でしとめたのは誰も気付かなかった。「お前らには本当に空を飛んで欲しいんや・・俺の空中殺法みたいにな・・」マスクマン横山はおっさんの死体を手に逃げる6人にそう語りかけるのであった。


[438] ケツから小説「ライト兄弟」第4話 <再動> 石黒 2002-03-25 (Mon) 03:12

(第3話木下著から引き継ぎ)

「空を飛ぶなんて、どだい無理な話だったんだよ・・・。」
工具類も売り払われ、何もなくなった倉庫にイパネマは一人つぶやいていた。ほんの数日前までここで6人の男たちが熱い汗を流しながら、人類史上初の飛行機を作り出そうとしていたとだれが信じられるだろうか。それを信じられるのはコンクリートの床に染み着いた6人の血と汗と涙だけだ。イパネマはコンクリートの床を触りながら、3日前のことを思い出していた。アルバトロス1号の墜落とナターシャの死。それらによって6人がばらばらになってしまうとは。
「・・・無理か、やっぱり無理だったんだ。」
イパネマは自分を納得させるかのようにもう一度つぶやき、地下室から去ろうとした。
「無理じゃねーぜ、飛ぼうと思えば飛べるぜ!」
「モトリー!!」
モトリーは照れくさそうに笑いながら、イパネマのところに近づいてきた。
「そうだよイパネマ、今回はモトリーの方が正しい。」
バッキーが自慢のあご髭を触りながら階段からゆっくりと歩いてきた。
「でも、オレがいないと飛ぶものも飛ばなくなるべ。」
池田がそのあとから、ゆっくりと続いた。
「さあ、また6人で、夢を追いかけるべ。」
「そうときまったら、飛行機つくってみるぜ!。」
「おう!」
いつのまにか富樫とマロンもきていて、イパネマに微笑んでいた。
「・・・みんな」
イパネマは知らず知らずのうちに泣いていた。どんなに飛行機が墜ちても、どんなに自分の夢を馬鹿にされても、ナターシャが死んでも泣かなかったあのイパネマが泣いていた。
「みんな、ありがとう。でも、もうここには工具もないし、俺にはもう金がない、それにボンドだって・・・。」
「心配してんじゃねーぜ、工具ならオレが叔父貴の自動車工場からかっぱらってきたぜ!」
「モトリー・・・。」
「金ならオレが持ってるべ、ほれ」
池田が背負っていたリュックの中から分厚い札束を取り出した。
「お前、こんな大金どうやって?」
「聞かない方がいいっしょ。」
池田がにやりと笑う。イパネマは札束に血がついているのをみて、聞かなくて本当によかったと思った。
バッキーがなにやら小瓶をイパネマに差し出し
「この前の”兄さん特製ボンド”は接着力が弱かったから、これ”父さん特製ボンド”。」
「ありがとうバッキー、これなら何とかいけそうだ。」
「イパネマ!」
イパネマが振り向くと富樫とマロンが微笑んでいた。
「がんばれ!」
2人はそう言って微笑んでるだけだった。イパネマは気を取り直して、みんなに向かって声をかけた。
「よし、6人そろって「ライト兄弟」復活だ!」
「おう!」
今、6人は血よりも濃い絆で結ばれた。あるものは泣き、あるものは笑い、またあるものは冷静を装っていたが、6人の心は人類初の飛行機を作るという大きな夢によって結ばれていた。そして、プロレスラー横山が階段の上で泣いているのを誰も知らなかった。まして、その手に工具とお金とボンドを持っていることなどは知る由もなかった。

「完成だ!」
ついに6人の夢の飛行機が完成した。3日間徹夜で作ったというのに、6人の顔には疲れの色さえ見えなかった。イパネマは満足していた。これでナターシャの霊も浮かばれる。
「名前はどうする?アルバトロス2号?」
バッキーが聞いてきた。
「いや、チキンハート1号だ!」
イパネマは力強くいうと、ゆっくりとみんなの顔をみて、これまた力強くうなづいた。
「チキンハート1号か、いい名前じゃねーか!」
モトリーはもう有頂天だった。池田も機体を触りながら、愛しい子供に語りかけるように、
「チキンハート、頑張って飛んでくれよ!」
富樫とマロンはただ微笑んでいた。
「よーし、名前も決まったところで、いよいよ初飛行だ!みんなこいつを大空の下に出してやろうぜ!

6人は地下室から出そうとチキンハート1号をゆっくりと押していった。みんなの顔には夢をやり遂げた男だけが浮かべられる至福の表情が浮かんでいた。ゆっくりと6人が押す、ゆっくりとチキンハート1号も進む、6人がゆっくりと止まる、チキンハート1号もゆっくりと止まる。6人はゆったりとした笑顔を浮かべながら、ゆっくりとチキンハート1号が出るはずの扉のほうに顔を向けた。


[437] ケツから小説『ライト兄弟」第5話 〈二人〉 マギー 2002-03-23 (Sat) 05:50

(第4話 石黒著から引継ぎ)

「荒井注じゃねーかよ!」
―荒井注。ザ・ドリフタ―ズのメンバーとしてお茶の間を賑わすも、その人気の頂点にしてドリフを脱退、
以降、個性派俳優として活躍しつつ、サイドビジネスとして当時は新しかったカラオケボックスの経営に着手。
しかし、苦心して建てたボックスにカラオケのマシンが入らなかったという有名な逸話を持つ伝説上の動物。

チキンハート1号は地下室の中から出なかった。出せなかったのだ。翼の部分を横にしようが斜めにしようが、
飛び立つべき大空への入り口である地下室のドアは、かたくなに外に出ることを阻んだ。
「ってゆーか逆・荒井注だよ!」
イパネマの言葉に6人は再び笑い出した。もうどれだけ笑っているだろうか。連日の徹夜の末、初めての大喧嘩の末、完成した
チキンハート1号のあまりの無様な“オチ”に、6人は果てしなく笑いつづけていた。
笑いがおさまり、沈黙が訪れても、誰かの「クククッ…」という思い出し笑いが伝染し、やがて大爆笑になる波の連続。
その爆笑は、途中、マスクマン横山さんが地下室に入ってきて「何笑ってんの?」と聞いてることも気付かず、
相手にされない横山さんが仕方なく差し入れのミスタードーナツを全部食べて帰ってしまっても、全く目に入らないほどに続いた。

「やれやれ……一回全部分解して外で組み立てよう。」
バッキーの言葉にようやく我に返った一同は、バリバリと“父さん特製ボンド”で接着していた翼を解体し、
機体を表に運び出した。外はいつのまにか夜になっていた。月明かりに照らされたチキンハート1号は、神々しい光りを放っていた。
「よっしゃ!もう一晩がんばって、朝イチで試験飛行するべ!!」
池田のパワーは信じられないものがある。三日三晩一睡もしていない池田からは破壊的な臭気が漂っていたが、
大空への、幼きころからの夢への、仲間との約束へのエネルギーに満ちたオーラもまた湯気が出るほどに漂っていた。
そのオーラは数分前までと同じように、メンバー全員に伝染し、6人組という集団がひとつの生き物として、
大きなパワーを持ち、機能し始めた。ついに『ライト兄弟』はひとつになった。

翌朝、6人は「ヤコブの崖」に立っていた。村一番の高台、ヤコブの崖を試験飛行の場所に選んだのはモトリーだった。
「飛ぼうと思えば飛べるぜ!」モトリーの無鉄砲な発言も、今では自信を持って6人がうなづけた。
「さー誰が乗るかだが………」と言いながら、イパネマはコクピットに飛び乗った。
「操縦はオレしかできねーだろ?」そう言って笑うイパネマの笑顔が朝日で眩しく光った。
「おっと、助手席は渡せねーな。」池田が続いた。「地下室借りたのはオレだし…いいだろ?」申し訳なさそうなバッキーを、
「いくぜ!」とモトリーが肩をたたく。「がんばれ!」とありきたりの応援をする富樫とマロン。
『ライト兄弟』の無言のルール、無言のヒエラルキー。チームワークと実力主義の交錯する6人の当然のポジションニング。
4人を乗せたチキンハート1号の車輪がゆっくりとヤコブの崖の地面を転がりはじめた。
大空へ向かって………。

富樫とマロンがその音を聞いたのは、チキンハート1号が宙に舞った、その直後だった。
岩と機体がぶつかる激しい金属音は、ふたりの心を逆撫でするように長く、長く続いた。
ライト兄弟を引っ張ってきた4人が、たった2秒の飛行時間と引き換えにその尊い命を失った。一瞬のうちに。
残された富樫とマロンは、これまで6人でいても積極的に話さなかった、存在感の薄かった、会議でも発言が極端に少なかった二人は、
ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。もう空を飛ぶなんて夢は諦めるしかない、だいたいこのふたりじゃ何もできない。
そう思ったマロンが聞いたのは、富樫の信じられない言葉だった。
「なーマロンよ。ワシはこれでライト兄弟は終わりやと思わんのや。ヤツラの遺志を継ぐためにもここで終われんのや。なーマロン、
ふたりになった今、ワシラはホンマの兄弟や。ワシが兄でお前が弟。そもそも6人もおるのに“兄弟”ゆーのもおかしかった。
ホンマのライト兄弟伝説はここから始まるんと違うか?おう?」
朝日を見つめ鼻腔をふくらませながら語る富樫の目には決意の炎が灯っていた。
「わかったよ、兄ちゃん!」

ふたりに残された時間はあとわずか。残された時間で兄弟っぽくふるまえるだろうか。
そして、大空への夢を実現できるのだろうか。もはや二人に“迷い”の二文字はなかった。

[436] ケツから小説「ライト兄弟」第6話<完成> 長谷川 2002-03-21 (Thu) 02:18

(第5話マギーから引継ぎ)

 「兄ちゃん!ネジをおくれ!」
「あいよ弟!?ってことはボンドは乾いたのか?」
ライト兄がプロペラにニス塗りをしながら弟に聞いた。ライト弟は兄の目をみれなかった。まだボンドは乾いていない。でもやるしかないのだ。この貸し地下室の期限切れまであと僅か。そう、僕ら兄弟にはもう時間がないのだ。スナックで働いて貯めた資金もすでに底をついていた。この8機めの試作機「チキンハート2号」を完成させなくては。残りのネジは1個、数はピッタリだ。全体にまんべんなくニスも塗っている。四人乗りから一人乗りにしたから重量的にも問題はない。今度はちゃんとお外へ持っていけるよう大きさも計算した。完璧なはずだ。あとはもう運を天に任せるのみ。神様!どうか、どうか僕達兄弟の夢を叶えたまえ!ライト弟はまだユルユルのボンドの中にゆっくりとネジをブチ込んだ。カチリッ。ぴたりとはまった。やった、さすが母さんお手製の強力ボンドだ。ネジなんか要らなかったほどだ。
「兄ちゃん!やったよ、僕達ついにやったよ!」
「バカ!泣くのは早いぞ弟!この広い大空うぉー、翼を広げぇー、チキンハート2号が飛んで行ってから泣けぇ!」
そう言いながらライト兄も涙でびしょびしょだった。2人は汗と涙と油でグッショリになりながら抱き合って喜び合った。
「よし!俺達の夢に向かってチキンハート2号発進!」
兄弟はチキンハート2号を台車に乗せ、原っぱへと急いだ。

 天気は快晴。原っぱには誰もいない。何度この日を夢見たことだろうか。2人には再び熱いものがこみ上げてきていた。2人にもう言葉はない。喜びと緊張とがごっちゃになって、もうよくワケがわからなくなっていた。ライト兄は感極まって突然走り出した。
「兄ちゃーあーん!」
ライト弟がそう兄を呼んだときには、兄の姿はもうなかった。兄ちゃんどこ?「おぉーい、助けてぇー!」
弟は自分の足元から兄の叫び声を聞いた。兄は天然の肥溜めに落ちたのだ。人間はモチロン、ウサギ、鳩、マムシ、イノブタ、様々な糞尿で溢れかえった天然肥溜め。ふっ、神様は色々してくれるもんだ。ただじゃあ飛ばせないってワケか。いいさ、やってやるっち。弟は肥溜めに飛びこんだ。
「来るなぁー!びぃふぁっ。危ないぞぉー!ぶへぇっ!」
完全にうんこが兄の眉間に挟まっていた。ついでに鼻の下にもぴったりとうんこが乗っていた。弟はうんこを掻き分け兄の手を握った。
「兄ちゃんは死なせない!びしゃっふ!2人でっふぁ、飛ぶんだっじょわ!」
2人が糞尿の海の中もがいていたその時、野太い声が原っぱに響いた。
「俺につかまれぇー!」
2人のよき理解者、心やさしきマスクマンプロレスラー横山さんがワゴい腕を差し出していた。そして2人は難無く肥溜めから引き上げられた。
「お前ら2人のことがどーしても気になったでガンスよ。」
横山さんは照れくさそうにそう言って、突然マスクを脱ぎ始めた。
「横山さん!ちょっ....あぁ!デン助ぇ!」
マスクを取ったその人は、幼馴染の黒板デン助だった。
「おまんさーらの夢っちゅーヤツを見たかったでガンスよ。そんでこーしてマスクマンとしておまんさーらの回りをうろついてたでガンス。」
幼き頃、夢を語り合ったデン助。僕達兄弟の他愛もなかった夢を覚えていてくれたのだった。
「ほんでは、おいどんはこれから試合だっち!だば!」
デン助は走り去っていった。2人はまた涙を流していた。よし、俺達の、そしてみんなの夢をかなえる時がきたのだ。2人はどっちが乗るじゃんけんをさっさと終わらせ、ライト兄が操縦席に向かった。兄は弟の方を振り向いてグッドラックの仕草をしてみせた。モチロン指はうんこまみれだ。
 ライト兄は思いっきりペダルをこぎ始めた。うまく点火すればもうもらったも同然だ。機体はグラグラと左右に揺れながら、原っぱを走り出した。
「兄ちゃーあーん、レバァー!レバー引いてぇー!」
ライト弟は力の限り叫んだ。兄はその声を聞いたか聞かずか、一心不乱にレバーを引いた。その時チキンハート2号はふわりとその機体を中に浮かせた。

[435] ケツから小説「ライト兄弟」最終章<終幕> 坂田聡 2002-03-20 (Wed) 02:43

(第6話長谷川から引継ぎ)

「飛んだ。兄ちゃんが飛んだ。」
弟は兄ちゃんを見上げそう呟いた。今兄ちゃんは風を味方につけ大空を飛んでいる。鳥のように飛んでいる。さっき肥溜めに落ちてしまったのが遠い昔のことのように感じられる。兄ちゃんを助けるために自分も肥溜めに入ってもう大変な状態になっている。でもその瞬間だけは自分の放つウンコの匂いも忘れ喜んだ。感無量だった。ウンコまみれの兄が飛んでいる。ウンコ汁を滴らせながら飛んでいる。でもその光景は弟が子供の頃夢で見たそれと全く同じ光景だった。
「あっデジャブ」心の中で弟は呟いた。

ここまで来るまで遠回りもしたけれど、今となってはすべてが良い思い出だ。自分達兄弟を狂人扱いして、街中に「誰にも言っちゃダメよ」と言いながら言いふらしたパン屋の米倉さん。「あたしゃあんた達の見方だよ」と言ってくれたスナック<ダブルベッド>のママ、ナタ―シャ。おそろいのバッタモンの靴を買ってくれたマスクマンプロレスラー、デン助。今ではみんなに感謝の気持ちでいっぱいだ。

遠くの方で兄ちゃんは力尽き地面に戻ってきた。
「お帰り兄ちゃん」ウンコまみれの兄弟はいつまでも抱き合って互いの努力をたたえ合った。
「もっと飛ぶヤツ作ろうぜ」「ああ兄ちゃん」
二人は暖かいシチューの待つ家に帰っていったのでした。

この後ライト兄弟の作った飛行機は進化を遂げ、無くてはならない交通手段のひとつにまで発展したのは周知の事実である。
今ではあらゆる交通機関の中で一番事故の少ない安全な乗り物なのだそうだ。

ライト兄弟の功績は永久に語り継がれる事だろう。

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